中国のホテル業界で、異業種に進出して成功を収めた企業の一つに、ホテル業大手の「アトゥール ホテル(亜朶酒店、Atour Hotel)」があります。
アトゥールは、ホテル業界の競争が激化し、成長の鈍化が懸念される中で、新たな成長の柱を模索し、寝具などの「睡眠経済」に注目しました。
特に注目すべきは、アトゥールが販売する枕「アトゥール深睡枕PRO」で、2023年には120万個を売り上げ、推定売上高は約3.65億元(約78億円)に達しました。
アトゥールの成功の背景には、新たな「中間層」顧客の存在があります。彼らは、高品質な睡眠を求めており、アトゥールの枕はそのニーズに応えています。
アトゥールは、枕にとどまらず、寝具や香り、音響といった「睡眠の体験」を提供することにより、ただの枕を販売するのではなく、睡眠の質を向上させる「場」を創り出しています。2024年の第3四半期において、アトゥールの総売上高は前年同期比で46.7%増加し、特に物販業務がその成長の原動力となっています。
同社は一部のホテル内に「深睡フロア」を設け、睡眠環境の最適化を図り、顧客に新たな体験を提供しています。
アトゥールが成功した理由の一つは、ただのホテルではなく、顧客に温かいもてなしを提供することにも力を入れていることです。サービスの細部にまで気を配り、顧客との接点を大切にしてきました。
例えば、チェックインする客に暖かいお茶で出迎えをしたり、夜食にお粥を提供したりしています。また、本を無料で貸出して読み終わっていない場合には持ち帰ってよく、近くの系列ホテルに返却しても良いというサービスもあったりして、さまざまなところで顧客の満足度アップに注力しています。
そして、アトゥールが成功した背景には、「睡眠経済」の急成長があります。中国では、特に中間層が、良質な睡眠を求めており、このニーズを見事に捉えたアトゥールは、枕という日用品を通じて自社ブランドの強化に成功しました。
アトゥールのように、睡眠経済の急成長のニーズを素早く捉え、顧客体験の向上を重視する企業は、競争の激しい業界において差別化が成功例として報じられています。
一方で、このような成功を他のホテルが模倣するのは簡単ではないという点もあります。アトゥールは、ブランドの構築に多くの時間とリソースを投資し、深い顧客とのつながりを作り上げてきました。そのため、他のホテルが同じような方法で成功を収めるためには、ブランド理念やサービスに一貫性を持たせることが求められるでしょう。